先月(2020年2月)各紙で報道された「公認日本語教師」についてのニュースを皆さんはご覧になっただろうか。
私は海外に移住し日本語教師として20年近く同じ職場に勤めているため、養成講座だとか、日本語教師の求人情報だとかにあまり関心を持たないのだが、今回のニュースは少し違った。
「日本語教師が国家資格化される」という。
とうとう、だ。
現行の日本語教師の資格とは?
外国人に日本語授業を行っている場所は、国内に海外、小・中・高等学校、大学、専門学校、日本語学校、企業内、米軍基地、自治体の日本語教室にカルチャーセンター、そして、個人レッスンなど様々である。
現在、日本語教師として求められる資格や経験の有無は、日本語授業が行われている場所によって異なり、「日本語教師」という公的な資格も存在しない。しかし、「日本語教師」の要件というものは存在する。
国内日本語学校の日本語教師採用基準
外国人が日本で在留資格を持ち、留学生として日本語を学ぶためには、法務省告示を受けた日本語教育機関に在籍しなければならず、これらの告示機関に所属する日本語教師は全員が法務省が定める教員の要件を満たしている必要がある。
*日本語教育機関(日本語教員)に関する条件については「日本語教育機関の告示基準」(新基準)に定められており、文化庁のHPで確認ができる。
日本語教師は4つの条件のいずれかを満たすこと
ほとんどの告示日本語学校は、法務省より告示を受けるため「日本語教育機関の告示基準」に定められている日本語教員の要件を日本語教師の採用条件にしている。
「告示基準」で定める教員の主な要件は次のとおり:
- 大学または大学院において日本語教育に関する課程を履修して、修了した者(主専攻:45単位以上、副専攻:26単位以上)
- 日本語教育能力検定試験に合格した者
- 学士の学位を有し、かつ、日本語教育に関する研修として適当と認められるものを420単位時間以上受講し、修了した者
- 上記と同等以上の能力があると認められる者
(平成28年7月22日、出入国在留管理庁「日本語教育機関の告示基準」より)
※日本語教育能力検定試験(公益財団法人、日本国際教育支援協会)
現在の日本語教師の要件
文化審議会国語分科会日本語教育小委員会、日本語教育能力の判定に関するワーキンググループ、第1回議事次第より
新しい【公認日本語教師】の資格とは?
先月(2月14日)、文化庁の文化審議会国語分科会日本語教育小委員会より、新たな日本語教師の資格制度について報告がなされた。
新しい資格制度は、「日本語教師の質、量、多様性の確保、そして、日本語教師の資質・能力の証明」を目的とし、2020年以降「公認日本語教師(仮)」という名称で国家資格化するという。
「公認日本語教師」の資格取得の3つの条件
新しく創設される「公認日本語教師」の資格を得るには、次の3つの要件を満たさなければならない。
1)試験の合格
2)教育実習の履修
3)学士以上の学位を有すること
1)試験の合格
試験とは日本語教育能力を判定する試験で、受験資格の設定は特にない。
※現行の日本語教育能力検定試験も同様で年齢や学歴に制限はないため、誰でも受験が可能である。
試験の内容および方法については今後検討がなされるようだが、平成31年3月「養成・研修報告書」の『必須の教育内容』に基づくものとしている。
「必須の教育内容」とは「日本語教師【養成】」に必要な基礎的な項目で、以下のように、3つの教育領域(社会・文化、教育、言語)、5つの区分(社会・文化・地域、言語と社会、言語と心理、言語と教育、言語)に分類されている。
文化庁「日本語教育能力の判定に関する報告(案) 」より
現行の教員要件「大学の教師養成課程の修了」「養成講座420時間コースの修了」とは別に、統一の判定試験の合格を義務付けることで日本語教師の資質の均一化と向上を図るという。
ただし、大学および養成講座の修了者に全部または一部の試験免除を行うかどうかについては未定で、今後も検討が続けられる。
2)教育実習の履修
教育実習の実施機関は、大学および文化庁届出受理日本語教師養成研修実施機関で、一部の実習は外部の日本語教育機関等と連携して実施可能としている。
実習の主な内容:
2)授業見学
3)授業準備
4)模擬授業
5)教壇実習(日本語を母語としない学習者5名以上に実際にクラス形式の授業を行う)
6)教育実習全体の振り返り
実習の時間数は、大学で1単位以上、養成講座で45単位時間以上としている。
3)学士以上の学位を有すること
海外でも活躍することが多い日本語教師。
教育職として国際標準の観点から、また、幅広い教養と問題解決能力を必要とすることから学士以上を有することが条件に含まれている。
また、告示を受けた日本語教育機関で学ぶ外国人留学生の大半が大学進学を目指しているため、指導者には学士以上が適当としている。
新設「公認日本語教師」の資格(イメージ)
文化庁「日本語教育能力の判定に関する報告(案) 」より
「公認日本語教師」の資格は10年ごとに更新 ~更新講習
「公認日本語教師」は、10年程度の有効期限を設けるとしている。
これは2009年に施行された小中高の教員免許更新制と大変似ている。教員免許状の場合、10年の有効期限の前に大学などで開講される更新講習を受けなければ、免許は失効する。
「公認日本語教師」の場合も、更新希望者には有効期限を過ぎる前の更新講習の受講を義務付けるとし、講習の詳細(内容、時間数等)については、さらに検討を続けていくようだ。
現行の基準で教員要件を満たす者に対する経過措置について
20年も前に大学(副専攻)を修了した私を含め、現在日本語教師として活躍している方々が最も懸念していることは「取得済みの今の資格はどうなるのか」ということだろう。
今回の報告(案)では、
現在「日本語教育機関の告示基準」の教員要件を満たしている人については、新たな「公認日本語教師」の要件を満たす者として扱う
としている。
また、公認日本語教師の登録には十分な移行期間を確保し、資格取得できるようにするとあり、胸を撫で下ろした人も多いはずだ。
海外における日本語教師の資格
では、日本の国家資格「日本語教師」は、世界で通用するのだろうか。
例えば、オーストラリアは初等・中等教育における日本語教育が普及している国だが、現地の公立学校で教えるためには、オーストラリアの大学の教員養成課程で学ぶ必要がある。10年も前の話だが、オーストラリアの小学校の教員資格を取得し、現地の小学校で日本語を教える友人は、日本語だけでなく、理科や歴史といった授業も担当しなければならないと言っていた。
私の場合はこちらの大学(日本語学科)に常勤講師として就職する際、手続きに大変苦労した。私立ではなく、国立の大学なので公務員扱いになるからだ。日本の学歴を認可してもらうために関連書類は全て翻訳し、役所を何度も往復した。途中担当者が変わって同じ手続きを繰り返すことも起きた。しかし、1年を経っても進展はなく、結局何か不都合が起きるまでは例外で雇ってもらうというオチである。
日本語教師ではないが、私の義理の妹は獣医師で国で資格を得たのち、アメリカに移住した。しかし、彼女の獣医師の資格をアメリカで認めてもらうために、要求される講義や試験(筆記、実技)を何年もかけて受ける必要があった。
資格を外国で認可してもらうには覚悟が必要。
地域によって異なるが、民間の日本語学校に就職するためであれば、保持する資格は日本大使館等で翻訳証明してもらうだけで十分である可能性が高い。しかし、オーストラリアのようなケース(公立の教育機関)では、日本の国家資格は評価されないのだ。
最後に私が所属する日本語学校についてだが、いつも採用時に重要視している点は、実践力(経験)、そして、誠実性や責任感、協調性などである。求人情報には応募条件の学位や資格を記しているが、それよりも人間性のほうがはるかに重要だ。国家資格でもこのような人間性を証明してくれるとよいのだが。
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