第14課は「みんなの日本語」の中で最も重要な課の一つです。
なぜ重要なのか。
それはこの課で動詞の「て形」が導入されるから。
第14課以降、学生はいろいろな表現を学んでいきますが「て形」は必須の活用です。
ここで活用のルールを理解せずに終わった場合、次の課は理解できません。
慎重に導入を行い、学習者が理解できたことを確認した上で、十分な練習を行い、使いこなせるようになるまでリードするのが、私たち日本語教師の使命(!?)です。
学生たちの今後の日本語学習の継続がこの課にかかっていると言っても過言ではありません。
第14課の導入クラスになるとメラメラ使命感が沸いてきます。
第14課「て形」の教え方
て形とは?(日本語の動詞の活用)
私たち日本人が小・中学校で学んできたものは国語文法(または学校文法)の動詞の活用です。以下を見て思い出してみてください。
動詞の活用形
- 未然形
- 連用形
- 終止形
- 連体形
- 仮定形
- 命令形
動詞の活用の種類
- 五段活用
- 上一段
- 下一段活用
- カ変/サ変
しかし、外国語としての日本語教育ではこの国語文法は使わず、外国人学習者にもわかりやすい方法で動詞をグループ分けし、異なる名称の活用形で教えていきます。
動詞のグループ分け(練習A1)
まず、動詞の活用「て形」の導入に入る前に「動詞のグループ分け」を確認しなければなりません。
動詞はルールに従い、3つのグループに分けられます。詳しくは下の表を見てください。
日本語の動詞のグループ分け
Ⅰグループ
「ます形」の「ます」の前の母音が「 i 」(い)の動詞
Ⅱグループ
「ます形」の「ます」の前の母音が「 e 」(え)の動詞
Ⅲグループ(不規則動詞)
「来ます」と「します」
動詞がⅠ、Ⅱ、Ⅲのグループに分けられることが説明できたら、既習の動詞がどのグループに属するのか一つ一つ確認していきましょう。
指導のポイント
教科書「翻訳・文法解説」のことばのリストには、動詞の横にどのグループに属するかローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)で書かれているので、説明しておきます。(第14課以降)
このグループ分けは例外もあるので、新出の動詞を学習するごとに、属するグループを確認するように指導します。
例外の例:「起きます」は「~ます」の前の母音は『 i(い)』ですが、Ⅰグループではなく、Ⅱグループになる。
例外というものはよく試験(日本語能力試験なども)に出てくるので要注意、と私はよく学生に言ってます。
~てください
依頼の表現「~てください」の導入です。(練習A2)
普段から「ちょっと待ってください」のセリフで馴染みもあり、依頼の表現であるとすぐわかります。
【て形】の導入
それでは、「て形」の活用を導入します。
て形に限らず、動詞の活用の導入は、
Ⅱグループ → Ⅲグループ → Ⅰグループの順で導入します。
これはⅠグループの活用が1番複雑なためです。
【て形】Ⅱグループ
Ⅱグループの動詞は、「ます」を「て」に置き換えるだけです。
【て形】Ⅲグループ
Ⅲグループの動詞は活用が不規則なので、活用形ごとに覚えなければなりません。
【て形】の場合は、「来て」と「して」になります。
【て形】Ⅰグループ
Ⅰグループの「て形」はかなり複雑です。「~ます」の前の音によって活用の形が異なるからです。PPTも1ページに収まりません。あせらず、既習の動詞で例を示しながら、一つずつ確認をしていきます。
※「行きます」だけは例外で「行いて」ではなく「行って」になることに注意します。
【て形】の歌
日本語教育の指導書などにはいろいろな歌(「きらきら星」「むすんでひらいて」「ロンドン橋落ちた」等)での導入が紹介されていますが、
- みんなが知っている歌
- 音程が高くない歌
ということで、「アルプス一万尺」をおすすめします。私は音痴ですが「アルプス一万尺」なら、大きい声で歌えます。
90年代のアメリカの子ども向け番組『バーニー&フレンズ』 (Barney & Friends)をご存知ですか?
主人公は見た目がまん丸の紫色の着ぐるみ。名前はバーニーといいますが、実は人間と話ができるティラノサウルスで、なぜか子どもたちに大人気です。ヨーロッパやアジアでも放映されていたため、20代の学習者ならよく知っているでしょう。
日本では知らない人がほとんどのバーニーですが、テーマソングは「アルプス一万尺」(英語圏では”Yankee Doodle”)がもとになっているんですねえ~。
では、その歌詞の確認です。
アルプス
一万尺
小槍の
上で
アルペン踊りを
さあ踊りましょ
いちりって
にびみんで
きいて
ぎいで
いきます いって
し して
授業で初めて「て形」の導入をする方は、自宅で歌う練習をしておきましょう。日本語教師は時には歌手にもならなければなりません。(!?)
時間をかけてすばらしい授業の準備をしても本番で中途半端な歌い方をしては、せっかくのバーニーもしらけてしまい、微妙な雰囲気だけが残ります。(下手という意味ではナイよ。)
バーニーはインパクト大。十分に利用しましょう。
恥を捨て2回ほどお手本で歌ったら、今度は学生と一緒に歌って練習します。最初は不安げに歌う学生も3回目ぐらいには楽しく歌えるようになっています。
最後に「テスト中に歌うときは静かにね」と笑いもとっておきます。
歌のあとは、フラッシュカードを使って【て形】の活用を繰り返し練習します。
基本動詞のFCは、こちらからダウンロードできます。
【て形】のゲーム
時間に余裕があるときは、【て形】練習のために、次のゲームはいかが?
(準備)
- やわらかいボールを1つ用意する。
- 既習の動詞のリストをホワイトボードに書き出す、または、PPTで映し出す。
まず、一人目の学生がボールを持ち、「食べます、食べて」というように、ホワイトボードに書かれた動詞を自由に選び、「ます形、て形」の順で言います。
次に、持っているボールをクラスメートの誰かに投げます。そして、ボールを受け取った学生は、同様に動詞を一つ選んでその「ます形、て形」を言って、次の学生にボールを投げます。
このボール投げゲームは【て形】の練習だけでなく、他の項目の練習にも応用できるゲームです。しかも、アラフォーの私がやっても脳の活性化に効果ありのゲームなので超おすすめです。是非これからは仕事カバンにボールの常備を。
第14課(後半)の教案とイラストはこちらからどうぞ。
コメント
て形の歌、多く(使えそうな歌)は、「ナ」行唯一の「死にます」が、入っています。デファクトスタンダードとも言える、「みん日」では、初級後半のL39で初出となるので、多くの方が「初級=既出表現で教える」の鉄則との間で悩んでおられるかと思うのですが、この件について、先生のお考えを伺えればと思います。
三井さま
コメントありがとうございます。
確かにみん日では後半で出てくる語彙ですが、海外でも北斗の拳が人気で「お前はもう死んでいる」というセリフは日本語を勉強していないアニメ好きの外国人でも暗記して言えちゃうぐらいです。一部の人かもしれませんが、既に知っていることばと授業で新しく学ぶものがリンクすると「なるほど~」となり、もっと学びたいという気持ちになる、モチベーションが上がるというような効果もあると思います。語彙にもよりますが、「死ぬ」は日常生活でもよく使う語彙ですし、鉄則は無視していいと私は思います。授業では教科書外のことも関連事項であれば紹介し、必要があると思う学生は自己判断で覚えていくと思います。
質問させて下さい。
「浴びます」は図式から、び→んで
になりますが、実際は「あびんで」ではなく「あびて」ですよね。
これは例外でしょうか。
はい、そうです。
「浴びます」は例外でⅠグループではなく、Ⅱグループに属します。
他にも「起きます、見ます、降ります、借ります、います」などが例外でⅡグループに属するので、指導の際には注意が必要です。