日本語を教える② ~「みんなの日本語」の使い方 

昨日に続き、今日も「みんなの日本語」がテーマです。

初めて日本語を教える、しかも「みんなの日本語」を使って…という方、ぜひ参考にしてください。

では、まず「みんなの日本語・初級」のレベルについてですが、本のタイトルにもあるとおり、日本語の初級レベルの教科書になります。(当たり前)

 

でも、初級レベルってどんなレベルなのでしょうか?

 

細かい尺度を説明すると長くなるので簡潔にいうと、日本語初級レベルとは

「日常生活の場面でのコミュニケーションがややゆっくりのスピードであればできる」

というようなレベルになります。

語彙数でいうと2000語ぐらいで意外と多い...若くないと覚えるのに苦労します。

 

では、初級レベルを終えるのにかかる時間数はというと、日本語教育界では一般的に

約300時間といわれています。(教科書が変わってもほぼ同じ時間数です。)

ただし、日本で毎日学習する場合(教室の外も日本語)海外で週2回学習する場合(日本語が使えるのは教室のみ)では当然異なり、海外のほうが時間がかかってしまいます。

 

また、英語のTOEFLや英検のような試験の日本語バージョンに「日本語能力試験(JLPT)」という試験がありますが、このJLPTでいうと、初級レベルはN4レベルに相当します。(*N1が超級、N5が初級)

「みんなの日本語」の概要

「みんなの日本語」にはたくさん副教材があるのですが、まず必要なのは次の2冊。

『本冊』(例文や会話モデル、練習問題)『分冊』語彙リスト&文法説明(各言語の翻訳付き)の2冊です。

それぞれ上下巻に分かれていて、

  • Ⅰ巻 第1課から第25課
  • Ⅱ巻 第26課から第50課 

になります。

「日本語初級レベルを教えたい」というのであれば、とりあえずこの4冊を揃えることになります。(「みん日」シリーズの他のテキストについてはこちらを参照。)

日本語能力試験(JLPT)のレベルでいうと、Ⅰ巻がN5レベル、Ⅱ巻がN4レベルに該当します。

 

進行スケジュールの例

では、海外の一般的な日本語学校のカリキュラムを見てみましょう。

1年目前期(全15週)第1課~第10課
後期(全15週)第11課~第20課
2年目前期(全15週)第21課~第30課
後期(全15週)第31課~第40課
3年目前期(全15週)第41課~第50課
  • 1年(30週)を前期と後期に分け、
  • 週に2回(各セッション2時間)の授業で、
  • 各課は約6時間

このカリキュラムは、全50課を300時間(2年半)で終える想定です。

「みんなの日本語」は独習するために作られていないので、教室での教師の指導&サポートのもと、効率良く授業を進めていかなければなりません。私たち日本語教師には大いなる使命が伴います。

授業の進め方

では、「みん日」を使った具体的な授業の進め方を確認していきましょう。

教師によって、コースによって、学習者によって、目的によって、教科書の使い方はいろいろです。でも、私が1番良いと思う方法をここで紹介するので、皆さん、信じてついて来てください。(いえ、ごく一般的な進め方です…)

テキストの構成

テキストの構成は、各課「文型・例文」のページに始まり、「モデル会話」(イラストつき)「練習A」「練習B」「練習C」と続きます。

 

では、テキストをページ順に見ていきましょう。

1.文型・例文

「文型・例文」には各課で目標としている学習文型がリスト化されています。

例えば、第1課の文型を見てみると、

1.わたしはマイク・ミラーです。
2.サントスさんは学生じゃありません。
3.ミラーさんは会社員ですか。
4.サントスさんも会社員です。

どうですか? “My name is Ken. This is a pen.” 中学校で習った英語を思い出しますねえ。

割愛しますが、これらの文型のあとに、文型を発展させた例文が続きます。

2.会話

次に、「モデル会話」のページです。

各課の会話の場面にはタイトルがつけられています。(第1課の場合は「初めまして」)そして、脚本のようにそれぞれのセリフの主の名前が書かれています。(第1課の場合は佐藤さんと山田さんとミラーさんの3人)

初めまして

佐藤:  おはようございます。
山田:  おはようございます。佐藤さん、こちらはマイク・ミラーさんです。
ミラー: 初めまして。マイク・ミラーです。アメリカから来ました。どうぞよろしく。
佐藤:  佐藤けい子です。どうぞよろしく。

この会話文の下に、場面のイメージイラストも描かれています。

一連の会話のイラストは「教え方の手引き」にあるCD-ROMを買えば、もれなく付いてきます。4コマ漫画形式で、学生の興味も引くし、練習もしやすくなるので買うことおすすめ。

3.練習A

練習Aは、練習ではありません。ええっつー? ですよね。

「練習」というより、例文のような気がします。
でも、新出の文型の導入後、その文型の例文を読んで理解できたかどうかを確認するので、やっぱり練習か…??

課によっては動詞や形容詞の新しい活用形が導入され、練習Aの1番にその活用表がまとめられています。見やすくて分かりやすい表です。

4.練習B

練習Bは、パターンプラクティスと呼ばれる練習です。(文の型(パターン)の練習)

もともとはオーラルアプローチという教授法で発展した練習方法で、戦時中、軍隊に敵国の言語を教えるために考えられたものでした。ミシガン大学で開発されたのでミシガン・メソッドとか、アーミー・メソッドともいわれます。

パターンプラクティスの中にもいろいろ種類があるのですが、基本はリピート練習です。
皆さんも学生のとき、英語の授業でやったはず。

練習C

練習C短い会話練習です。どの課も3つの練習(場面)が用意されていて、イラストもついています。「会話」同様、「教え方の手引き」にあるCD-ROMにマンガ形式のイラストが入っているのでこれを使います。

練習Cの気になる点は、どの会話も何だか尻切れトンボなところ。

例えば、第1課の練習C-2番は、

A: 失礼ですが、お名前は?
B: イーです。
A: リーさんですか。
B: いいえ、イーです。

え?これで終わり?Aさん??何も言わないんです?

テキストのスペースが限られているせいか、こんな終わり方。学習文型が入っていればそれで良し、なんだろうけど現実の会話はそうじゃない…

皆さんの授業では自然な会話になるよう、「A: あ、イーさんですか。すみません。」と追加しておいたほうが良いかもしれません。

 

実際に授業を進める流れ

では、実際に授業を進める流れを順に見ていきましょう。

 

 

語彙の導入

各課2ページに、動詞、形容詞、名詞、固有名詞の順でリスト化されています。また、練習C(ミニ会話)と会話に出てくる会話表現等は別枠になっています。

学生の負担を減らすため、各課の語彙を分けて導入する先生もいますが、私は各課1回目のセッションで一度に導入してしまいます。日本事情や文化に関する語彙については、写真やビデオを見せ、媒介語で簡単に説明をしたりもするので、語彙導入とその練習に最低30分はかかります。日本の進学対策の日本語学校では語彙は授業では取り扱わず、宿題になっているところも多いようです。

「みんなの日本語」は日本語能力試験(JLPT)対策になる分、語彙数が本当に多いです。学生が1番苦労するのが語彙と言ってもよいぐらい。授業では時間をかけて、絵カードを使って、十分練習したいところです。

語彙練習には、絵カード(ピクチャーカード)を購入する必要がありますが、「みん日」の第2版からはデジタル化(CD-ROM)されたイラストが手に入るのですよ。私が日本語教師デビューしたとき(20年前)は厚手の紙に印刷されたカード集しかなく、高級品かつ非常に重い物だったのよ...

 

練習A、練習B、練習C

語彙の次は文法です。

各課、文型が4つぐらいまであるのですが、1つずつ導入(説明)していきます。
導入ができたら、その練習で、各文型に該当する練習B練習Cをやっていきます。

この練習ABCの流れは、上の図の点線の四角に囲まれた部分で、文型ごとに同じ流れを繰り返します。

例えば、第1課の1つ目の文型「わたしはマイク・ミラーです」の場合、
練習の流れは、【練習A1→ 練習B1、2→ 練習C1】になります。

会話

練習A、B、Cが全部終わったら、会話です。副教材の会話ビデオを使って楽しく学びましょう。

文型・例文/問題

会話が終わったら、課のプリまとめをします。各課、1番最初のページの文型・例文に戻り、読み合わせをします。

そして、本当の課のまとめとして、「問題」をします。
2ページの復習問題で自宅学習も可能ですが、通常は教室でやっています。内容は、聴解、言語知識(語彙・文法)、読解で、日本語能力試験(JLPT)に似た問題形式になっています。

 

各課の時間の割り当て

1つの課を3回のセッションで行う場合の時間配分(例)です。

第1課「初めまして」

第1課-セッション1(90分)
  • 30分
    語彙導入
    文化紹介も含め、語彙を導入し、絵カードを使って口頭練習をします。
  • 20分
    練習A1、B1&2、C1
    1つ目の文型の導入とその練習です。
  • 20分
    練習A2、B3
    2つ目の文型の導入とその練習です。
  • 20分
    まとめ or 文字(ひらがな)
    この授業のまとめやひらがなの導入&練習をします。
第1課-セッション2(90分)
  • 10分
    前回クラスの復習
    語彙、文型を復習します。
  • 20分
    練習B4、C2
    練習A1、2の文型を応用したものの導入とその練習です。
  • 20分
    練習A3&4、B5
    3つ目の文型の導入とその練習です。
  • 20分
    練習A5、B6、C3
    4つ目の文型の導入とその練習です。
  • 20分
    まとめ or 文字(ひらがな)
    この授業のまとめやひらがなの導入&練習をします。
第1課-セッション3(90分)
  • 10分
    前回クラスの復習
    語彙、文型を復習します。
  • 20分
    練習A6、B7
    1つ目の文型の応用です。使い方の例を導入し、その練習をします。
  • 20分
    会話
    会話ビデオを見ます。グループに分かれて、モデル会話を真似た練習をします。
  • 10分
    文型・例文
    課のまとめです。
  • 30分
    問題
    聴解問題、読解問題などをします。

1課を3回のセッション(合計6時間)で行う授業案で、第1課の内容以外にも、ひらがなを練習する時間も含めてみました。

学生数は10人ぐらいが理想ですが、20人のクラスもたくさんありますよね。知り合いのインド人先生はインドの大学では1クラスの学生が60人いると言ってました。(日本語を学ぶ学生は1年で1000人を超すらしい。はあ~2度びっくり。)大学の大教室でするんでしょうけど、どうやってするのか。しかもインド国内の出身地によって母語が異なるらしく...想像できませぬ。

以上、「みんなの日本語」の使い方についてまとめました。
「日本語教師始めました」の方々にお役に立ちますように。

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